出発

写真:左上から時計回りに、南極地域行為者証、出発式で挨拶する土井隊長、見送りに来てくれた家族と、パース到着後はすぐに「しらせ」に滞在、隊員を送る職場の人たちの横断幕。基準点調査でお供する国土地理院の方達

 

 

Ipadのスケジュールに空欄の目立つ11月こそ、南極での研究の準備をしようと思っていた。特別な装置などいらない行動科学的なデータ収集だが、調査やその分析のための先行研究は目を通しておきたい。しかし、次から次へと新しい用事が白いスケジュールに書き込まれ、同僚の形容によれば「殺人的なスケジュール」で11月が過ぎていった。

 

 最後の週に、大学の仕事の引き継ぎを何人かの先生とした。アウトドア関係の仕事も引き継ぎを済ませる。1月末には10年間続いた500人規模のイベントがある。自分の力で引っ張ってきたイベントだけに、今年は休止することも考えた。だが、同僚が引き受けてくれることになった。大学や地域のクラブも協力してくれる。学生たちからも、専門化された作業から雑用まで引き受けると言ってくれる者が出てきた。引き継ぎをする度に、自分がいなくてもこの世界は回り続けるのだという感傷じみた心持ちになる。退官間際の先生はそんな風に感じて過ごすのだろうか。

 

 オーストラリアに飛ぶ成田発のカンタス便は19:30の出発だが、集合は14:30に設定されている。第二ターミナルのJカウンター脇に集合し、隊員は公用旅券を一人一人渡される。私たち同行者は、それ以外の必要な書類を受取る。その中には南極地域活動行為者証もある。南極地域では環境に影響を与える活動に制限があり、それらの行為を行う者は、環境大臣から、個々にこの証を受けなければならない。私の研究は直接こうした行為を行うものではないが、同行する野外調査の一員と見なされるので、動植物の採取や潜水、特別保護地域への立入、が記載されていた。

 

 チェックインを済ませた後に、駐車場ビルの有料待合室で、出発式が行われた。文科省の担当課課長補佐の壮行の辞、極地研所長や第59次隊隊長、同越冬隊長の挨拶のあと、全員の写真撮影があって、ささやかな式は終わった。隊員の3~4倍の見送りの人がいただろうか。

 

 見送りに来た人との別れの場となる手荷物検査場の入り口では、隊の旗とともに家族や同僚との写真撮影が続く。職場の同僚が用意したであろう趣向を凝らした手作りの横断幕が微笑ましい。見えなくなるまで小さくなる姿を見送ることができる晴海からの出発がなくなっても、場にあった別れの儀式は生き続ける。行き慣れた海外遠征の体で出発する気でいたが、来てくれた家族と記念写真も撮った。4ヶ月の留守の大きさが実感できる。1年4ヶ月の別れとなる越冬隊員やその家族の心中はいかばかりだろうか?