Youは何しに南極へ?もう1つの南極物語 PartII

宮内さんの面接の訓練として、伊豆松崎でカヤックの講習を受けた。山のリスクなら、僕も宮内もよく分かっている。彼女が、「自分がよく分からないリスクに対して、どう質問できるかを練習したい」という。このブログでも紹介するように、私たちの研究が一番お世話なるフィールドが、湖底の堆積物の掘削、つまりは水上での活動でもある。そこで、シーカヤックの講習を受け、それをインタビュー練習の素材にさせてもらうことにした。
親父がくも膜下出血で倒れて、新潟県小出の病院に入院してしばらくして、脳髄液がたまって手術が必要だという。昨今の医師は訴訟リスクを恐れてか、ポジティブなことをほとんど言ってくれず、話を聞くと気が滅入る。脳髄液を出さないと水頭症になるし、手術にはそれなりのリスクがあるという。水頭症になれば確実に死に近づくので、手術を受けないという選択肢はないのだが、究極の選択とはこのことだ。ベネフィットを追究すればリスクがあるということは、リスク研究をするものにとっては当然のことなのだが、それでも身内の命が掛かっていると考えると、そう簡単には割り切れない。それでも、所詮は人の命に対する判断だったのだと、今回思い知った。話は、健康診断の結果に遡る。
▲7月上旬に行われた隊員室開きに訪れた宮内さん(右)  もう10年以上前、朝日カルチャーの読図講習の講師を宮内佐季子さんと務めたことがあった。下見の時、僕たちは当然のように走っていた。自然公園のような場所からトレイルに入ろうとする時、整備されたトレイルには、木口レンガが敷き詰めてあった。その日、天気は良かったが、水はけがあまり良さそうに見えないその場所では、木口は黒ずんでいた。スリップに注意しなければならない。その区間に足を踏み入れた最初の着地の瞬間、僕は木口のフリクションを確認しようとした。僕がつま先を捻ったその瞬間に、隣を走っている彼女も足を捻ってフリクションの具合を確認しているのが見えた。
競争が激化した現在の科学には、多くの倫理的問題がつきまとう。数年前の小保方問題で顕在化した論文の不正はその一つだが、人を対象とする研究では、もう一つ、協力者の人権やプライバシーの保護という問題がつきまとう。
59次隊に参加した時、「せっかく壮行会をやるなら、古地図でやろう」ということになって、壮行イベントをやった。「古地図」というのは、僕がこの5年ほど、年2回くらいのペースでやっている古地図(明治期の地図)を使って東京でやるオリエンテーリングのことだ。オリエンテーリングは、地図を使って目的地を見つけ、フィニッシュまでのタイムを競うアウトドアスポーツで、僕は長年選手をしてきた。最近は、そこで培ったナヴィゲーション技術を登山界などの安全確保に提供する活動をしているが、その一環としてやっているのが、古地図×東京でのオリエンテーリングだ。
 観測隊参加不可の結果を通知されてからは怒濤の一週間だった。8/11に振り返って、まだあの日からたったの4日間しか経っていないことが驚きだった。8/7、あるいは自分が南極で越冬するということで全てが進んでいる日々はもう遙か昔のことに思える。あれは幻だっただろうか?...
健康診断の結果が、実は8月上旬に伝えられていたのだが、9月上旬になってようやく正式な通知がきた。8月に伝達を受ける時、直接会ってお伝えしますからと言われたのだから、いい知らせの訳がない。案の定、越冬はおろか夏隊参加も叶わずという結果となった。...
「村越さん、61次参加されるんですよね。期待しています」と、地学の研究主任の菅沼さんから声を掛けられた。湖沼にボートを浮かべる観測をするという。門外漢の僕には今ひとつピンとこなかった。湖沼だったら気水圏の研究?
例年観測隊の夏隊の調査研究期間は40日。ところが、今年の61次の夏隊は約2週間短く、たった25日しか昭和基地にいられない。その最大の理由がトッテン氷河周辺の観測である。なぜそんなに大事なのか?現在、3つある南極観測の重点テーマの一つが、「海洋と南極氷床の相互作用の研究」だという。そう言われても、素人の私にはよく分からない。
2017年、同行者としての南極行きが半月後に迫った11月半ば、事務の方から連絡があった。なんでも、私の南極行きが記事になった新聞を見て、送りたいものがあると言う年配の女性からの連絡があったとか。連絡先を伝えてもらうことにした。...

さらに表示する