離岸

左上から、①越冬交代の様子、②しらせに期間する越冬隊を迎える観測隊員・自衛官。越冬隊の帰路便だけは、搭乗隊員は乗員搭乗口からの乗り降りとなり、全艦総出での出迎えとなる、③昭和基地を離れるしらせを見送る59次隊員、④彼らに分かれを惜しむしらせ艦上の観測隊員たち。

 


 今日(2月12日)の朝日新聞の夕刊では、しらせが昭和基地を離れたというニュースが一面のトップだった。今年は越冬の記者を派遣しているということもあるが、あまり大きな事件もなかったのだろう。昭和基地での越冬は一応2/1からスタートし、前次隊の越冬隊員はすでにしらせに引き上げているが、しらせはしばらくオングル島やリュッツォ・ホルム湾内で航行試験や観測をしているので、へりでの昭和基地とのいききは可能だ。

 

 そして、2月の中旬、いよいよしらせは帰路に就く。公的には何も意味はないが、最後に昭和基地の沖合を通過して別れを告げる。しらせから見れば、望遠鏡でみても越冬隊員の表情は見えない距離だが、その心中は顔は見えなくても推し量ることはできる。越冬隊員にしてみれば、いよいよ自分たち30人だけで隔絶された10ヶ月近い時間を過ごすのだと覚悟を決める瞬間であろう。

 

 新聞の見出には、「昭和基地維持30人だけで」とある。文字通り外界との物理的な接触ができない過酷な環境の中で、そこにいる30人だけで全ての問題に対処していかなければならない。閉ざされた環境での社会というテーマも魅力的だが、研究者自身がその中で生活しなければならない参与観察が可能になるのは、まだ時間が掛かるだろう。一方で、限られた資源の中での問題解決という観点からは、エキスパート研究としてもワークプレイス研究としても、これほど魅力的なテーマもないだろう。思うようにいかない自然の中での輸送計画やヘリコプターオペレーションの調整など、59次で参加した時にも魅力的に思えた。それらの機会を得ることができななかったことは本当に残念に思う。「リスクマネジメント研究の現場はちゃんと与えてやるから、そこまで贅沢を言うんじゃない」という神の思し召しなのかもしれない。

 

 信心深い方ではないが、神は何かの意図を持って自分を日本に残したと考えたくなる。ただそれが悲しいことでなければよいと思いつづけてきた。その時間ももうすぐ新しい時間の流れに合流する。次隊への準備が始まる。来週から健康診断、冬期訓練など、62次隊に向けての新しい道のりがスタートする。