34. Cuisine in Antarctica

カップヌードルの宣伝になりそうな写真だが、実際研究活動に忙しいお  昼は、カップラーメンやα米でさっと済ませることが多い。すぐに食べられて  熱々のカップ麺はありがたい。
カップヌードルの宣伝になりそうな写真だが、実際研究活動に忙しいお 昼は、カップラーメンやα米でさっと済ませることが多い。すぐに食べられて 熱々のカップ麺はありがたい。

 父は整理上手で、実家には呆れるほど無駄なものが少なかった。亡くなったとき、実家には南極関係の資料は限られたものしか残されていなかったのだが、その中に15次隊ミッドウィンターのお品書きがあった。手書きのそれは、少し厚紙の表紙には肉筆の南極風景画が描かれるという凝りようだ。西村淳が書いた「おもしろ南極料理人」にも描かれるとおり、ミッドウィンターは、越冬隊にとって最大のお祭りである。大の大人が3日三晩学園祭のノリで遊びつくす。料理も贅を尽くした品々がならぶ。15次隊のお品書きには、前菜にオングル海峡産サーモン、ラングホブデ沖いか雲丹焼き、弁天島産白魚亀甲焼き等々と並ぶ(産地は南極の地名であり、事実かどうかは怪しい)。メインディッシュは大和山脈風ローストビーフ、白瀬氷河風伊勢海老、また模擬店には晩年寿司屋を開いた小堺氏らしく20種の「皇帝寿司」も並ぶ。ミッドウィンターの酒池肉林は夏隊の僕には経験できないが、いったい南極で何が食えるのだろう?観測隊同行が決まってからの興味のひとつは南極の料理であった。今回は、しらせも含めた南極観測隊の料理を大紹介!

 

15次越冬隊のミッドウィンターの食事お品書き。これが4ページ分ある。
15次越冬隊のミッドウィンターの食事お品書き。これが4ページ分ある。

 フリマントルを出港したその晩は、前日に解禁となったロブスターが食卓にならんだ。刺身かボイルをチョイスできた。いまやロブスターは珍しくないが、刺身を食える機会はそうはないだろう。まよわず刺身をチョイス。ボリュームでボイルには劣るが、珍しい味を楽しむことができた。

 

 しらせの食事は、概ね6:15、11:45、17:45の3回提供される。自衛隊時間は-15分のペースで進むので、朝食は6時すぎ、昼食11:30ごろ、夕食は17:30に供される。朝食は質素だが、昼食・夕食は味やバランスに工夫が見られるがっつり系献立が多く、変化の少ない航海中の最大の楽しみであった。たいていの観測隊員は往復のしらせでかなり太るという。特に昼食は、メインの肉か魚に加えてお惣

菜が3種類、場合によってはデザートがつくという充実ぶり。

 

 

 定例メニューが2つある。ひとつは海軍以来の伝統の金曜日の昼のカレー。そして9日の肉。カレーはイカ墨を加えたカレーやらキーマカレーにナンが付くなど、現代風にアレンジされている。一方肉の日はしらせの習慣らしく、ほとんどの場合ステーキがメインで、この日だけはワインも出る(観測隊では飲酒は常時可能だが、自衛官は限られた機会しか飲酒が許されていない)。南極圏(南緯55度以南)では食費が約1.5倍になるのを平均化しているようで、食材もよい。肉も某結婚式で人生の中で一番おいしかったステーキに次ぐおいしさだった。また、時々郷土料理がメニューに含まれる。広島の郷土料理村上水軍にちなんだ水軍鍋とか、八戸のせんべい汁がでた。自衛隊員にとっても、5ヶ月にわたる任務の最大の楽しみなのだろう。

 

 大晦日と正月をしらせで過ごした時には、年末年始らしいメニューが供された。おおみそかはえび天の乗った年越しそば。そして元旦はおせち料理がでる。いかにも手料理のおせちは、プラスティックではあるが、一人ひとり弁当箱に詰められていた。コハダの粟漬けから、きんとんや黒豆、有頭車海老など19品からなる本格的なもの。それに特製包装の焼酎が付く。しらせで年越しできてよかった。

 

 年末と2月中旬のそれぞれ3日間、ソフトクリームが出た。ソフトクリームを渡されて科員食堂(自衛隊員の食堂)から出てくる隊員の顔は、どれも子どものような笑顔でほほえましい。 

 

クリスマスの夜を若者と過ごす。ワインにクラッカー、フライパンではピザを焼いた。デザートにケーキ。日本にいるとき以上に(?)クリスマスらしい夕食。 
クリスマスの夜を若者と過ごす。ワインにクラッカー、フライパンではピザを焼いた。デザートにケーキ。日本にいるとき以上に(?)クリスマスらしい夕食。 

 昭和基地での食事はしらせから提供される食材で、観測隊の調理隊員かしらせの調理隊員によって作られるが、野外調査の際は、予めしらせから提供される「糧食」を、各チームが自分たちの日程に合わせて資材とともに現場に持ち込む。計算された総量から、チームの人数×日数によって按分されて配布されるのだが、間違いではないのか?と思うような莫大な量が提供される。もちろん、ヘリが迎えにこれない事態もあるだろうし、基本的には手をつけない非常食もある。それにしても多い。しかも、場慣れしたチームは、足りない食材や調味料を持ち込む。

 

 実際に食べる献立はチームによりけりである。料理にこだわりとスキルがある人がいれば、野外でも「おー」と感嘆する家庭料理も出てくるが、こだわりがないと、初日が焼肉、二日目が鍋、三日目の朝は鍋の残りでおじやとなったりする。なにしろ野外調査とはいえ、多くの場合、観測資材も食材もヘリでキャンプの間近まで持ちこむのだ。量に関しては文句のつけようがない。氷河の予察キャンプでは、クリスマスの晩にはピザに解凍したケーキ、ワイン(これはチームの持ち込み)が堪能できたし、ボツヌーテンでは、これでもかというくらいの肉を食べさせてもらった。長期にわたる寒冷環境での調査だ。これくらい食べないとやっていられない。南極に滞在中は、10時、15時にはお腹がすくので、必ずおやつを食べ、日常的にもチョコレートをぼりぼり食べていた。それでも太ることがなかった。南極恐るべし。