4.遙かな道

 「上げ膳、据え膳」になった今回も、健康診断でもたもたしている。2月の健診の結果、尿潜血でひっかかってしまったのだ。4月に再度尿検査をするという羽目に陥ってしまった。その時点ではある程度楽観視していた。だが、UTMFの安全管理でホテルに缶詰になっていた時、その結果が戻ってきた。やはりひっかかってしまった。

 

 これまで健診や人間ドッグでひっかかってしまったことは何度もある。その多くはトレーニングのやり過ぎによる尿検査だった。前日にへとへとになるまでスピード系のトレーニングをした結果、γ-GTPが異常に高くて再検査になったこともある。現役を退いて以来、ほぼほぼ健診でひっかかることはなくなったもんだから、リスクマネジメントが足りなかった・・・。大ショックである。

 

 それにしても尿潜血とは気になる。ウェブで調べてみると尿の潜血の原因は多様で表層的なものから結構深刻なものまである。尿道結石はかなり痛い(海外遠征中に同僚が七転八倒しているのを見たことがある)ので嫌だなあ。最悪は腎炎か。さすがにこの歳になると、年相応のガタが来る。日常なら経過観察で支障なく暮らしていけるのだろうが、1年3ヶ月を過ごす南極だからそうも行かない。やれやれ。

 

 健診を受けた代々木病院(観測隊御用達)の泌尿器科で検査を受けたところ、相変わらず潜血は出ているが、泌尿器科的には問題ないらしい。じゃあ何が問題かというと、CTスキャンによれば静脈がドチョウしていて、それで腎臓からの血液の戻りが悪くなっているのが原因なのではないかという一応の結論になった。今度は循環器の受診が必要らしい。ドチョウが「怒張」だということは少し考えて分かった、「ドチョウ」という音だけでも、ちょっとヤバイじゃね?と思うに十分だった。

 

 ファースブックに報告したら、コメントが多数寄せられた。励ましやお大事にというコメントの他に、案の定、「私もなったことあります」的な情報も多数寄せられた。昨今医者は、ポジティブなことを言って悪い方になったら患者との関係がこじれるリスクがあるので、あまりポジティブな予後の話をしてくれない。現実に元気に暮らしている人の過去の体験談がもっとも励みになる。ずっと前から健診でしょっちゅう尿潜血でひっかかっているけれど、何の問題もなく日常生活を送っている人は多いということだ。現実問題の解決にはならないが、精神的負荷はだいぶ軽減された。

 

 精神的負荷といえば、精神科も再受診になってしまった。「うつ病」歴について詳しく調べたいということらしい。夏隊ならともかく、越冬隊では確かに懸念は大きいだろう。そうだと思って前回報告したんだから、ちゃんと問診しといてよ!ってところだが、これも仕方あるまい。そもそも越冬期間中、特に極夜(白夜の反対)の時期にはうつ気分が高まるという研究報告はいくらでもある。リスクは誰にでもあるってことだ。これもうつ病のさなか世界選手権にも行ったという実績をアピールするしかあるまい。

 

 そんな愚痴をある隊員志願の方にしたら、「私なんか(まだ候補にすらなっていないので)健康診断すら受けられていない」と言われた。ハイ、贅沢な悩み、ってことですね。