27.復活の日

ちまたではカミュの「ペスト」が売れているらしい。「南極を除く5大陸で感染者発生」というニュースを見ると、今読むべきは「復活の日」だろう。

 

 細菌兵器を輸送途上の飛行機がアルプス山中に墜落した。春になって気温が上がるにしたがって、その細菌は活動をはじめ世界各地に広まっていく。致死率98%ともされるその細菌によって、瞬く間に人類のほとんどは死滅してしまう。南極大陸にいた約1万人の観測隊員を除いて。その後、死滅した世界に巨大地震が発生し、それを核攻撃と誤認したアメリカの自動システムはソ連(当時)に向けて核弾頭を発射し、死の世界で核ミサイルの打ち合いとなる。それはタイトル「復活の日」の伏線でもあるのだが、これ以上の紹介はやめておこう。

 

 この小説、1960年代に小松左京によって発表された。1980年には映画化もされている。50歳代の多い今年の南極観測隊隊員も、きっとこの小説のことを思い出しているだろう。しらせ艦上で見た「シン・ゴジラ」はシュールだったが、これから越冬が本格化する観測隊員にとっても、現実自体シュールな状況だろう。致死率が低いとは言え、高齢の家族は、自分たちよりも過酷な環境にいるかもしれない。胸の痛む越冬生活を送っていることだろう。

 

 今年の観測隊が南極に旅立つまではまだ半年以上ある。しかし、有効なワクチンの実用化はそれよりも先かもしれない。となれば、唯一感染者のいない南極にウイルスを持ち込まないためにはどんな努力ができるだろうか?しらせの20日の航海で発症者がなければ、自信を持って南極に乗り込める。でも、もし発症者が出たら?今年は(南極の)春先の活動も積極的に計画されている。それらの隊員は飛行機で南極入りをする。その際、ウイルスを持ち込まないために、何ができるのだろうか。ただでさえ過酷なミッションは、一層過酷なものとなるだろう。

 

 たった四か月の私でさえ、シドニー入港直前に見えた大地の緑に目頭が熱くなった。彼らの目に日本の状況はどう映るだろう?南極の過酷さに比べればこれしきと思うのだろうか、それとも別の意味で過酷な環境と映るのだろうか。「越冬から帰ったら何がしたい?」という問いに、「温泉につかりたい」という答えがあった。さぞかし、のんびりゆるゆる過ごしたいだろうに、それが許されないとしたら、辛かろう。過酷な越冬生活を終えて帰国する60次隊、夏隊の61次隊隊員は、予定より2日早い3月30日、成田空港に帰国する。