· 

身近な遭難を考える

 勤務先の大学院生を含む5名のパーティが、遭難した。静岡県内の南アルプス前衛、沢口山。寸又峡からは2時間程度で上れるハイキング程度の山らしい。新聞記事によれば、10月31日の夕方霧が出て道に迷い、迷ったことには気づいたが、下ればなんとかなると思って下っているうちに、遭難したらしい。ここまでは、年間600件ある道迷いとして珍しい状況ではないが、発見の状況が特異だった。

 

 報道機関がヘリから撮影した画像をみると、彼らは尾根の先端の大きな崩壊地で発見された。画像で見る限り、少しでも動けば滑落の危険がある急斜面に見える。そんな斜面に入り込んだことも信じがたいが、5人がばらばらで、互いとコミュニケーションをとったり、気遣ったりする(した)様子もその画像から見えてこない。

 

 5人はいずれも初心者で、装備も十分ではないようだった。若い人(特に女性)の山への関心が高まっていることが指摘されているが、自然の中に入る上での最低限の心構えと準備について伝えないと、こんな遭難はさらに増えそうである。大学では、防災と安全についての新入生向けの講演会をここ数年実施している。この一件だけで断じることはできないが、「リスク」を自分のものとして感じられるような講習を行わないと、類似の事故はまだ起きるだろう(ちなみに、当大学では、約10年の間、私が知っているだけでも、海岸で流されヘリ救助、台風後の高波により流され死亡という、自然環境での死亡事故が起きている)。

 

 衝撃的な現場の映像の割にはたいしたけがもなく救出されたためなのか、遭難者を含めた記者会見も行われた。遭難は確かに本人たちの責任であり、それが社会に対して影響を与えたことは間違いない。しかし、いかにも「晒し者」感が否めない。「犯罪の加害者だってもっと人権があるでしょ。そこまでしなくちゃいけないんでしょうか?」とは、記者会見のTV映像を見たアシスタントの弁だった。映像そのものをみていないので、評価はできないが、そのコメントには共感を覚えた。