カテゴリ:2011年2月



 「ビヨンド・リスク」という世界のトップクライマー十数人に対するインタビュー集を読んだ。彼らの中には危険なフリー・ソロで大岩壁を登るクライマーも少なくない。その彼らの多くが口にするのが、「自分は臆病だ」「用心深い」という形容詞だ。題名と一般のイメージとは裏腹に、彼らは決してリスクを越えない。しばしば彼らはリスクや状況をコントロールしているという言葉も発している。これらは自然の中でリスクの多いナヴィゲーションをしているナヴィゲーターの心性とも似ていて興味深い。  さらに興味深いのは、その一方で、彼らはクライミングの持つ未知の要素や危険が彼らを引きつけているとも言う。リスクには本来未知の要素から生まれる不確実性が含まれているはずであり、それは状況をコントロールしているとは概念的に相反する状態のはずである。主観的にそれがどのように折り合いがつけられているのだろうか。残念ながら、本書にその答えはない。その答えを探すことは、リスクに対する人間の考え方を理解するための重要な問いとなることだろう。